【家族介護者の体験記】食事介助をやめ、スプーンやお箸も使わない食事で元気に!
十人十色の家族の介護。99歳のお母ちゃんと2人暮らしをしながら介護を続ける有岡さん。手づかみで食べることでいきいきとした生活を取り戻したお母さん富子さんの食事風景を取材しました。

お箸やスプーンを使わず、自分の手で食べる食事スタイルがあります。
「お母ちゃん、食べるよ。」
そういって有岡陽子さんは、母・富子さんの首元に水色の綺麗なエプロンを巻きました。
お母さんの前には小さなお皿が1つ。
陽子さんはそこに少しずつおかずを取り分けます。
99歳の富子さんの食事スタイルは「手づかみ」です。
スプーンやお箸を一切使わず、ご自分の手で掴んで口に運んで召し上がります。
「手づかみで食べるようになって、母は食欲がすごいんです。」と陽子さんは仰います。
自分の手で食べるようになった”きっかけ”は?
以前の富子さんは、お箸を使ってご自分で召し上がっていました。
しかし数年前、風邪がきっかけで体調を崩し、一度は危篤状態になってしまったのです。
その時、食事方法は一変しました。
陽子さんがスプーンで口元まで食事を運ぶ、いわゆる「全介助」になったのです。
その当時は、お茶を飲むのにもトロミ剤を使っていたといいます。
食欲も落ちてしまった富子さんを見て心配をする娘・陽子さん。
その時、介護をよく知る友人からアドバイスがありました。
「お母さんは一人で食べられるんじゃない?」
試しに陽子さんは、白いご飯を小さなおにぎりにして富子さんに渡してみました。
すると、おにぎりを手に取った富子さんはそれをご自分の口へ持って行き、自分の力で食べ始めたのです。
そこから、みるみるうちに食欲が回復し、何でもしっかり食べる昔のお母ちゃんに戻ったといいます。今ではトロミ剤も使っていません。
素手で食事をすることで得た”メリット”とは?
手を使って食事をすることで良くなったのは食欲だけではありません。
なんと、以前は激しかった食事中のむせが殆どみられなくなったのだそう。
介助で食事をしていると、介助者のペースで食べ物を口にすることになってしまいます。
しかし、「食べよう」という意思があってはじめて手を伸ばし口に入れる手づかみの食事スタイルは、むせを引き起こしにくくするようです。
「介助で食べていた時よりも時間はかかるようになりました。
夕食には40~45分くらいかかります。
でも、手で食べるようになって母は表情まで生き生きとするようになったんです。」
さらに驚いたことがありました。
「手を使うようになって初めて知ったんですが、実はお母ちゃんは左利きだったんです。」
それまでの生活では右利きだった富子さん。
本能で食事を摂るようになって初めて、富子さんの右利きは幼い頃に矯正されたものだとわかったのです。これも、長年母と生活をしてきた陽子さんには新しい驚きでした。
※こちらの写真は2年前のもの
手づかみで食べる時の注意点を教えて戴きました。
お箸を持たなくなった方や食事に集中できなくなった方にはつい介助をしてしまいがちです。
しかし実は、ご自分で食べる力がまだまだ残っているケースもあるのだということを
お2人の姿を通して知ることができました。
最後に、陽子さんが食事の場面で気をつけていらっしゃることを以下にご紹介します。
- 一度に口に詰め込みすぎてしまうことがあるので少量ずつお皿に載せる。
- 大きいものはハサミで一口大に切って渡す。
- エプロンにビニール袋をつけて、1回ごとに廃棄する。
- 必ず自分も横で一緒に食事を食べることにして、席を外さない。
- ミンチ肉を使う、蓮根などはすりおろして使うなど調理方法を工夫する。